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ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版購入ガイド

ダンジョンズ&ドラゴンズはお世辞にも安い買い物ではない。コア・ルールと呼ばれる中心的ルール群でハードカバーが3冊。1冊6000円に消費税、3冊で18000円である。

しかし、これらは一度に購入しなければゲームができないものではない。

また、この文書を読むあなたは、TRPGに興味がある、あるいはある程度の経験者で、自ら情報収集をするモチベーションがあるはずだ。

そこで、そのようなあなたがD&Dを初めるために、どのような製品を、どんな順番で購入するのが望ましいかを解説するのがこの記事である。

まずはスターター・セットから

コア・ルールの話を持ち出した直後に恐縮だが、D&Dを初めるのにベストな選択は3000円のスターター・セットである。

これは5人の作成済みキャラクター、1~5レベル用のアドベンチャー(多くのシステムでシナリオと呼ばれているもの)、セッションで使うルールがまとまった冊子、ダイス一揃いが箱に入ったもので、導入製品としてよくできたものになっている。

アドベンチャーもなかなかボリューミーで、5、6時間のセッションでも4、5回は遊べるはずだ。

また、アドベンチャーで使うためにモンスターや魔法のアイテムのデータも結構載っているので、自分でもアドベンチャーを作ってプレイすることもできる。

このように、スターター・セットは低レベル帯でのプレイに必要なものがひとつにまとまりながら、価格はルールブックの半額程度なので、ちょっとD&Dをやってみたい人が手を出すのに手頃な製品だ。

ただし、PC自作派のプレイヤーには残念なことだが、スターター・セットにキャラクター作成のルールは収録されていない。もしあなたやプレイ仲間がPC自作派なら、公式サイトで公開されている無料のベーシック・ルールで基本的な種族、クラスのPCを作成できるので、そちらも参考にしてほしい。

スターター・セットTips

スターター・セットに付いてくるルールは1冊なので、これはダンジョン・マスター(他ゲームでいうキーパーやゲーム・マスター、ルーラーなどのこと、以下DM)が管理し、プレイヤーがやりたいことを宣言したら判定に使う能力値や技能を告げるようにすると、セッションの流れを切らずに進めることができるだろう。

また、ベーシック・ルールは無料ダウンロードできるので、プレイヤーはそれを印刷したり、スマートフォンやタブレットに準備するなりして、自分でもルールを参照できるようにしてもいい。

スターター・セット以降:DM編

これからD&Dをやってみたいあなたが、まずはDM志望だと仮定して話をしよう。

ベーシック・ルール

公式サイトでダウンロードできるD&Dの無料公開部分である。

プレイヤー用は4つの種族と4つのクラス、6つの背景、装備などのデータ、ルール、そして基本的な呪文が掲載されている。

ダンジョン・マスター用は、モンスターとノンプレイヤー・キャラクター、戦闘遭遇の作成方法、基本的な魔法のアイテムが掲載されている。

スターター・セットと被る部分も多いが、PCを自作したりアドベンチャーにひと味加えたいなら、まずこれらに目を通すことをおすすめする。

モンスター・マニュアル

スターター・セットをある程度遊んだところで、次に何を買えばいいのかなと悩んだら、まずはモンスター・マニュアルだ。なぜなら、多彩なモンスターの生態や伝説、イラストがふんだんに掲載されているからである。

D&Dの一番シンプルな形式のアドベンチャーは、ダンジョンズ&ドラゴンズの名が示す通り、危険な洞窟や廃墟などのダンジョンへ挑み、ドラゴンズ、すなわち怪物どもを倒すことだ。

つまり、モンスターたちはこのゲームの影の主役だ。ゴブリンとの戦闘で本を開いてイラストを見せ、種族に伝わる鬨の声を叫んだり、崇める神格の名を出せば、プレイヤーたちはより一層、別世界で冒険している雰囲気を味わえるだろう。

それに、モンスター・マニュアルは、世界設定を補完する1冊でもある。

実のところ、D&Dはコア・ルールの範囲内で体系的、網羅的に世界設定を解説していない。これは英語圏ではフォーゴトン・レルムの小説がベストセラーで、D&Dに原作付きゲームの側面があったり、世界設定を自作するユーザが比較的多い、地域や街の設定はそこが舞台のアドベンチャーで語られるなど、さまざまな文化の違いがある。

だが、文化の違いに困惑する方も多いだろう。

そんな時に役立つのもモンスター・マニュアルだ。かの本で紹介されるモンスターたちは、さまざまな神話や生態などの背景とともに紹介されている。彼らは名脇役であると同時に、世界を語る設定でもあるのだ。

ゴブリンはゴブリンなりに、ドラゴンはドラゴンなりに世界の中で生きていて、他種族との関係もある。あなたが他のTRPGでマスターをやり、自分でシナリオを作ったりしているなら、こういった情報がシナリオフックの束であることは、簡単に理解してもらえるはずだ。

というわけで、スターター・セットの基本的なルール、ファンダリン周辺の設定、それにモンスター・マニュアルの豊富なデータを組み合わせれば、自作のアドベンチャーを作っていく下地は十分なものになる。

そう、豊富なデータも本書の大きな特徴であり、スターター・セットベーシック・ルールの範囲で補完できない要素だ。少し成長したPCの好敵手となるオークの戦闘酋長やノールの群れの長など、同じモンスターがちょっと強くなったバージョンは、スターター・セットに掲載されている一部を除くとモンスター・マニュアルにしか掲載されていない。逆にいえば、これさえあればあなたはデータを自作する手間から解放されるのだ。

長くなってしまったが、世界設定が補完され、成長したPCに対応できるデータが多数掲載されているのが、あなたにモンスター・マニュアルを薦める理由である。

最後に、本書のモンスターには、プレイヤーズ・ハンドブックにある呪文や、ダンジョン・マスターズ・ガイドのみに掲載された魔法のアイテムを持つ者もいるが、そこは広い心で無視していけばいい。ない袖は振れないのだ。

ダンジョン・マスターズ・ガイド

ゲームの運用指針、世界を造り描いていくことに関するさまざまな記事や表、この世ならぬ世界、次元界についての解説と特別ルール、罠のルールとデータ、DMへの助言、キャンペーンの雰囲気や目的に合わせて導入できるルール、モンスターや種族の自作ガイドライン、ランダム・ダンジョン作成法などが掲載されている。

マスター用の章で指針やデータ、プレイエイドを提供するTRPGは多い。それがD&Dでは1冊の本になっている。なかなかの存在感である。

特筆すべきは作成者や来歴を決定する表などがある、ドラマチックな魔法のアイテムのルールだ。

D&D第5版の魔法のアイテムは、強い。そして、魔法のアイテムに関する表やルールは、その強さに説得力を持たせるための由来や来歴を設定し、物語の中でより強く大きな役割を持たせようとしている。ただの+1ロングソードでも、その向こうには、滅びた王国の悲劇や、邪悪な陰謀が見え隠れするかもしれない。それはDMやプレイヤーが決定してもいいし、ダイスで決めてそこから膨らませることもできる。

グリッドを使ったより細かい戦闘をやりたい場合も、本書にオプションとして掲載されている。参考にするといいだろう。

選択ルールはかなり分量が多いので、まずは見出しを流し読みし、やってみたいアドベンチャーやキャンペーンに合わせて読み込むのがいい。

また、これは構成上の不備というか瑕疵に感じられるが、環境別、脅威度別で分類されたモンスターのリストは、モンスター・マニュアルではなく、本書に掲載されている。注意されたし。

プレイヤーズ・ハンドブック

読んで字の如く、プレイヤーがPCを作るためのルール、データがそのほぼすべての本である。

D&D第5版のルールは、PCとNPCを別のデータ形式で管理する。そのため、あなたがDMとしてプレイするなら基本的なルールはスターター・セットベーシック・ルールでフォローできるので、優先順位は低くなる。

ただし、呪文が使えるモンスターを色々出せるようになってくると、その効果を確認するために参照回数が増える。そのうち買おう。

スターター・セット以降:プレイヤー編

これからD&Dをやってみたいあなたが、プレイヤーの場合、スターター・セット以降はどんな順番で触れるといいかを解説しよう。

ベーシック・ルール

公式サイトでダウンロードできる無料ルールだ。基本的なデータはこれで参照できるし、PCの自作も可能で、レベル制限があるわけでもないから、あなたがこの範囲で満足しているならこれでずっとプレイし続けることも可能ではある。

プレイヤーズ・ハンドブック

PCの作成、運用に関するルールがまとまっている本だ。プレイヤーをやりたいなら、購入の優先順位では当然ながら一番高くなる。

種族、クラス、背景などのデータにはより詳細な解説とイラストが添えられ、あなたがゲーム内世界を見る時の解像度は確実に上がる。マルチクラスや特技などのオプションも提案され、それをDMが許すなら構築可能なデータの幅はどんどん広がっていく。

TRPGはプレイヤーとマスターの間でやりとりする交流と合意のゲームだが、ルールを手元に置いて読むことで、より能動的に行動を提案できるようになるプレイヤーもいる。あなたがそんなタイプなら、ぜひ購入をおすすめしたい。

呪文使いの場合、プレイヤーズ・ハンドブックに掲載されている呪文は数が多すぎて混乱するかもしれない。そんな時は、ベーシック・ルールに掲載されている呪文のリストから選ぶといい。

ダンジョン・マスターズ・ガイド

魔法のアイテム関係のデータが増えてきたら逐一メモを取るのが面倒くさいかもしれない。そんな時は、本書を買ってしまうのも手だ。こちらに掲載されているオプションやルールをずっと使っていく時も、DM以外に持っている人が多いとゲームの進行は速くなるだろう。

モンスター・マニュアル

モンスターに関する知識は、あなたが自分のPCをプレイする際、台詞や描写に織り交ぜることで、より世界に没入する手助けになるだろう。そのために、買って読んでおくのは悪くない。

コア・ルール、そしてその先へ

ここから先は、サプリメント(追加ルール集)、アドベンチャー(シナリオ)、サプライについて軽く説明する。

すべてのアドベンチャーは、コア・ルールを全部所持していることが前提で、モンスターや魔法のアイテムのデータはそちらを参照する構成になっている。

ダンジョン・マスターズ・スクリーン

DMとプレイヤーを隔てるついたて。プレイヤー側にはイラスト、DM側にはルールの要約や便利な表がある。

各種アドベンチャーの専用スクリーンもあり、それぞれに合わせたイラストと表になっている。

魂を喰らう墓

密林広がる南国チャルトが舞台のアドベンチャー。ジャングルの探検や遺跡の探索を楽しめる。

ソード・コースト・冒険者ガイド

フォーゴトン・レルムの人々や神格、地方などを俯瞰して解説したサプリメント。アドベンチャーを自作したり、PCにより詳しい設定をつけたい人向け。PCのオプションも若干収録されている。

呪文カード魔法のアイテムカード

呪文や魔法のアイテムがカード化されたもの。プレイヤーの場合PCが使うものを、DMの場合アドベンチャーで出すものを用意すると、データを書き写したりルールブックを開くより取り回しが楽になる。ラミネート加工されているので、汚れはつきにくい。製品数が多いため、プレイヤーも自分が使う分を買うと金銭的負担は少ない。

ザナサーの百科全書

さまざまなオプションや追加ルール、表が収録されている。なくても大きく不自由はしないが、あると世界が少し広がったり便利になる。

大口亭綺譚

旧版の評価が高いアドベンチャー7本を第5版用にアップデートしたオムニバス・アドベンチャー集。それでもアドベンチャーそれぞれは結構長い。

ウォーターディープ ドラゴン金貨を追え

巨大都市ウォーターディープが舞台のアドベンチャー。ウォーターディープの都市設定もついている。

ウォーターディープ 狂える魔術師の迷宮

下の階に行くほど敵が強くなる巨大なダンジョンのアドベンチャー。階層を個別に切り出すと短め。ウォーターディープ ドラゴン金貨を追えの続きとしてもプレイできる。

ヴォーロのモンスター見聞録

解剖図や巣などのモンスター生態誌と、PC用新種族、新モンスターが収録されたサプリメント。アドベンチャー自作派や、より詳しくモンスターの生態を知りたい人向け。

モルデンカイネンの敵対者大全

ドワーフやエルフ、デヴィルにデーモンなど、さまざまな種族や世界が解説されている本。新たなPC用の種族と、オルクスやバエルなど、固有名を持つ特別なデーモン、デヴィルをはじめとした新モンスターも収録されている。

バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス

悪徳が蔓延する都市、バルダーズ・ゲートから始まり、九層地獄のアヴェルヌスへと赴き正義を試される異界探検のアドベンチャー。くせ者揃いなNPCとの交流も遊びどころ。

この文書は2019年12月28日発行の同人誌5e Zine vol.1に寄稿したものを加筆、修正したものである。