Under the Beanstalk ===================  Under the Beanstalk (以下UB)は汎用TRPG語り部のサプリメントです。  UBには近未来の無国籍都市についての世界設定と、そこを舞台としたTRPGの セッション用に追加ルールを提供します。ジャンルとしてはサイバーパンクに なります。  プレイヤーキャラクター(以下PC)はフラワーポットと呼ばれるその都市を 舞台に活躍できる実力を持ったプロフェッショナルで、映画やマンガの主人公 程度にはヒロイックな行動を取って成功することができます。  最後に、この文書はTRPGや語り部についてある程度の理解がある方を前提に 書かれています。 世界設定 ========  時は2040年。ところはインド洋、モルディブ沖に浮かぶメガフロートによる 赤道直下の群島都市、フラワーポットです。  中心に軌道エレベータ、ビーンストークがそびえるこの都市では、宇宙開発 ブームの終焉と共にデータヘイブン、タックスヘイブンとしての事業を開始し、 世界中から危ないデータや金銭が流入しています。  PCはこの都市の住人となるのです。 2040年までの世界情勢 --------------------  2006年に、軌道エレベータの建造を目指すアルツターノフ・アイデアル財団 (以下AI財団)が設立されたことにより、ビジネスとしての宇宙開発に脚光が 浴びせられました。AI財団は全世界規模で株主を集め、赤道直下のインド洋に 軌道エレベータの基部となるメガフロート、フラワーポットを建造します。  2020年には軌道エレベータ、ビーンストークが竣工します。その後は順調に 月面の資源基地、ラグランジュ点L1のコロニー群と開発は進みますが、もはや 人類に宇宙へと飛び出す意欲も動機も無いことが露呈して、宇宙開発ブームは 急速に鎮火し、2036年にはAI財団が主導する軌道施設の建設は凍結されます。  しかし、宇宙開発が閉塞すれど株主からは利益を要求されます。これに対し AI財団の出した回答は、ビーンストークでヘイブン事業を行い、それ目当てに 集まる団体や個人の経済活動から利益を吸い上げるというものでした。  かくして、赤道直下に一大無国籍都市が誕生することとなったのです。 テクノロジーガイド ------------------  見える義眼、聞こえる義耳などの義体は、人工神経の発達で2030年過ぎには 人体に元からついているものの性能を凌駕するものが生産されるようになって います。しかし、脳と脊椎を完全に義体化するまでの技術はありません。  また、それと並行して脳にコンピュータを接続し、データ化した五感刺激を 楽しむ擬験などのマインドマシーンインターフェイスも発達しており、内臓を 義体化して栄養剤生活となった人に味覚を提供するなどのサービスがあります。  これらの普及度は、最先端の現場では装着や操作の習熟を求められますが、 一般レベルではまだマニアのおもちゃ程度としか認識されていません。疾病の 治療としての義体化はそれなりに普及しています。  肝心のネットワークは宇宙にも進出していますが、未だにインターネットを つぎはぎして運用している状態です。  AIはチューリングテストをクリアできる程度のものは実用化されています。  超能力、魔術などは存在するかもしれません。しかし、現代と事情はさほど 変っておらず、テレビのショウでまゆつばネタになっている程度です。 キャラクター作成 ================  UBのPCは語り部のルールで作成します。最大技能値は15、余力は18です。  実力のほどは、ウィザード級のハッカー(筆者はこの言葉を使用することに 忸怩たる感情があることを否定しません)、伝説の人斬りなど技能値10ほどの 一般人ならどれだけ束になっても敵わないプロ中のプロです。  語り部のルールから唯一拡張される部分は、PCのプロフェッショナルぶりを 表現する技能、主技能です。PCが最も得意とする技能をひとつだけ、主技能の 欄に書いてください。  主技能については次の項で解説します。 主技能 ======  UBではセッションでPCが使える技能。つまりPCが一番得意なことを主技能と 定義し、人技体の三属性に分類しています。  主技能には三属性の優先順が存在します。最初の属性はそのままの技能値で 判定できます。二つ目の属性はもともとの技能値から4を引いた値、三つ目の 属性はもともとの技能値から8を引いた値とします。  これは、腕っ節は立つが手先の仕事は苦手、凄いエンジニアだがひきこもり など、PCのキャラクター性をゲームで簡単に表現するためのものです。  記入例は以下のようになります。     タオル[技/体/人]:15/11/7 等価の原則 ----------  主技能はそのキャラクターが研ぎ澄ました技能で、異能と紙一重の存在です。  このため、同じ属性同士なら絶対に判定を試みることができます。タオルで 鋼鉄の扉を開こうが、大物に潰されそうなニュースを歌にして発表しようが、 属性が同じ限り問題はありません。  逆に、どんなに近縁でありそうな技能でも、属性が違う技能同士では絶対に 判定を試みることができません。 体属性 ------  日本刀、オートマチック拳銃、己の拳、音痴な歌、手から出る稲妻などなど 様々なものがありますが、体属性の主な役目は目前に立ちはだかる敵を退ける ことです。 技属性 ------  コンピュータ、七つ道具、タオル、器用な指先、学会を追われた科学力など など様々なものがありますが、技属性の主な役目は閉ざされた扉を開けて外へ 脱出したり、時限爆弾を解除したりといわゆる盗賊的なことです。 人属性 ------  工作資金、社会的地位、上司の力、信者、パパの友達などなど様々なものが ありますが、人属性の主な役目は悪い噂を揉み消したり、通常のルートで手に 入らないものを強引に入手したりといった社会的な活動です。 技能の例 ========  技能の参考として例をいくつか用意してみました。 けんじゅつ【剣術】《技能名》      刀、青龍刀、カタール、シミター、ブロードソードなど、とにかく     剣のたぐいを扱う技能です。      体属性でこの技能を使う場合、剣術で相手を斬るというよくわかる     運用ができます。      技属性の場合は体属性と同じように障害物を斬って活路を開いたり、     剣術の技に通じるものがある云々と薀蓄を並べるという手もあります。      人属性の場合はナイフを突きつけて脅すことから風格で信頼させる     ことまで割と万能の演出ができると思います。 そしきりょく【組織力】《技能名》      社、組、ファミリーなど、所属組織の力を行使する技能です。その     キャラクターがトップなのか、信頼された代理人なのか、使い捨ての     コマなのかなどは関係なく、技能値分の力を行使することができます。      体属性でこの技能を使う場合、組織の兵隊を動かすことができる、     特殊訓練を受けた、新製品を使っているなどの演出が考えられます。      技属性の場合は工作チームを動かせる、高級な機材を使えるなどが     できると思います。      人属性はこの技能の真骨頂ともいえるでしょう。所属組織のコネ、     カネといったリソースを使って個人ではどうにもならない状況を作る     わけです。 簡易判定 ========  UBではクライマックス以外の判定を原則として簡易判定とします。簡易判定 では強制力と目標値に技能値を分割しません。GM側とPC側が技能値と特徴値を 足した判定値を比べるだけです。 簡易判定手順:     1.GM側が使用属性と判定値を宣言     2.特徴値を得るための難易度ロール     3.PC側が判定値を宣言     4.判定 1.GM側が技能値と特徴値の合計、使用属性を宣言 --------------------------------------------  GMがPCの取ろうとした行動に対して発生する障害の属性と技能値、特徴値を 足した判定値、GMが判定に勝利した結果起こる事態を宣言します。  PCはこれ以上の判定値を出せば判定に勝利となります。 2.特徴値を得るための難易度ロール --------------------------------  判定に使うための特徴は原則としてこの段階でしか得ることができません。 任意の技能で難易度ロールをして特徴を得てください。  難易度と得られる特徴値については以下の通りです。     難易度 得られる特徴値     5   1     10   2     15   3 3.PC側が技能値と特徴値を合計した値を宣言 ----------------------------------------  PCがGMの宣言した属性に対応する技能値と特徴値を合計した判定値と、PCが 勝利した結果起こることを宣言します。 4.判定 ------  PCの判定値がGMの判定値と同値以上だった場合、判定はPCの勝利となってGM 側はPCの判定値からGMの判定値を引いた分のダメージを余力に受けます。  PCの判定値がGMの判定値に達しなかった場合、判定にPCは敗北します。  PCが敗北した場合、GMの判定値からPCの判定値を引いた分ダメージを余力に 受けて判定が成功したことにするか、PCがGMの宣言した結果を受け入れるかを 選んでください。 Tips ---- ・PC同士の対決になった場合は能動的に動いて判定の属性を選べる側をGM側と  読み替えるといいでしょう。 ・GMはPCが障害に差をつけて判定に勝利した時、何らかのプラスがあるように  するというのもよいでしょう。 クライマックス判定 ==================  UBのクライマックス判定では強制力ロールを使って判定します。  GMはクライマックスに突入したと判断した場合、クライマックス判定開始を 宣言してください。  クライマックス判定ではPCが全員行動した後にNPC が行動し、全員の行動が 終了した時をもって1ターンの終了とします。  行動として行えることは以下の通りです。     1.強制力ロール     2.一時的特徴の取得 1.強制力ロール --------------  1.は敵を殴り飛ばして気絶させる、シャンデリアにぶら下がって窓を蹴破り 脱出する。などといった強制力ロールです。技能と属性、あれば一時的特徴を 宣言した後、何を対象にどのような行動を起こすか明言して行ってください。  クライマックスに参加しているPCやNPC は、これに対し無効化を行うことが できます。これは行動としてはカウントされません。また、一つの判定に対し 2回以上の判定を試みることもできます。 2.一時的特徴の取得 ------------------  2.は簡易判定の時に一時的特徴を得るように判定をプラスにする特徴を得る 行動です。  注意するべきところは、これだけで行動が終了することです。一時的特徴を 得た後、続けて強制力ロールを行うことはできません。  以下の難易度表を使って難易度ロールを行ってください。     難易度 得られる特徴値     5   1     10   2     15   3 ワールドガイド ==============  ここからはUB世界の詳細な設定を説明しています。 フラワーポット ==============  フラワーポットとは軌道エレベータ、ビーンストークの基部としてAI財団に よって建造されたメガフロート群のことです。メガフロートとは人工の浮島で、 フラワーポットで使用されているものは最大一片5kmほどです。これらを橋や 水上バスで繋ぎ、その上に都市が築かれています。  赤道直下、モルディブ沖のインド洋公海に浮かぶフラワーポットはあらゆる 国家に所属しておらず、AI財団の私有物ということになっています。  税制は存在せず、AI財団はフラワーポット株の発行で出資者をつのり、その 資金で都市の維持や拡張を行っています。フラワーポット株の配当はAI財団が 行う人工食料販売や、フラワーポットの土地貸し出しといった事業の利潤から 出されています。 ヘイブン事業 ------------  国家による圧力が無いフラワーポットという場所を利用し、宇宙開発の次に AI財団の始めた事業はデータヘイブン、タックスヘイブンというヘイブン事業、 ハイリスクなデータや金銭の退避所です。  これによりフラワーポットへ世界各国から銀行家や情報企業が移住し、一大 無国籍都市が生まれたのです。  また、国家に領有されていないフラワーポットはクライムへイブンであると 陰口を叩かれることもあります。事実、フラワーポットには多数の犯罪組織や 犯罪者が亡命していたり新たな草刈場を求めて進出しています。警察も企業の フラワーポットでは、彼らや彼らの守る人々に不利益が無いのなら大抵の事は 見過ごされます。ただし、警備している区画で盗みや殺しなどがあれば企業の 信用問題であるため、それなりに捜査をされますが。 マスタリングガイド ==================  ここではGMをやる人向けのちょっとしたアドバイスや、シナリオの作り方を 説明します。 PCを知る --------  当然のようですがかなり大事なことです。キャラクターシートを読んだり、 プレイヤーと話すことでPCに対する理解を深め、どのようなシナリオの傾向に したらよいのかを考えましょう。プレイヤーに直接どんなことをしたいのかと 聞くのも手っ取り早い手段です。  特徴や設定で敵や守るべき人などを持っている場合、GMは積極的にPCの敵を 出したり、守るべき人を窮地に立たせることをおすすめします。ただし、他の PCと比べて明らかに辛い状況に追い込むのではただのいじめになりかねません。 そのシナリオの黒幕がPCの敵だった、守るべき人が狙われている。といった、 直接判定に関わらないシナリオ段階での仕込みがよいでしょう。 判定と時間 ----------  オンラインプレイでの原則ですが、判定を行うと結構な時間を消費します。 プレイ人数にもよりますが、簡易判定一回で五分前後、クライマックス判定は 一時間程度を見積もるとよいでしょう。 簡易判定のタイミング --------------------  参加PCの持っている属性のばらつきにもよりますが、簡易判定を行う場合は 技能値15の属性を持っている場合、判定をせずとも成功している判定値12〜13 程度で、技能値11の属性を活用して成功するといった程度の難易度で行うのが よいと思います。  簡易判定自体は一セッション中三回ほどあればよいでしょう。判定で差分を 出した場合、差分の一時的特徴をプレゼントしてあげると次に続く判定となり、 プレイの励みになるでしょう。技能値11のPCに対して行う判定値12の判定で、 判定値13を出して成功したら差分の特徴値1を与える程度が目安です。 クライマックスは全員に活躍の機会を与える ----------------------------------------  UBはPCの一番得意とする属性がばらけることが多いシステムです。しかし、 クライマックスは撃ち合いなど、体属性での決着が多くなりがちだと思います。 しかし、こうなってしまっては技属性、人属性が高いPCを動かすプレイヤーは 退屈になってしまうでしょう。  このような事態を回避するため、GMはそれぞれのPCが得意な属性に対応した シナリオ上の障害を設定することをおすすめします。  たとえば、技属性の場合は敵の囲みを突破するために厳重な鍵を解除する、 厳重に護られたサーバから秘密のデータをダウンロードする。人属性ならば、 現在やっているドンパチを揉み消すために関係機関と掛け合うなどです。 シナリオの作成 --------------  UBのシナリオは余力を持つキャラクターとして扱います。解決すべき事柄は 「失踪者に関する情報封鎖[人]:13」など技能で表現されるわけです。  クライマックス以外で使う技能は技能値11〜13程度、クライマックスで使う 技能は技能値15程度が無難でしょう。  余力はPCの余力である18を推奨します。余力を増やすよりも敵NPC の頭数を 増やし、強制力が高い判定を何回も行うなど判定の数で調整したほうが難易度 調整は楽になるでしょう。 シナリオ作例 ------------ やりすぎた幹部の暗殺《シナリオ》      PCは傭兵、殺し屋など[体]属性が15であるキャラクターを想定。      フィクサーを通し、ヤクザなどの犯罪組織から目立ちすぎる活動で     組織や同業者に迷惑をかけてしまい、死んでもらわなければならない     幹部の暗殺を依頼される。      PCが後の憂いについて疑う場合は、組織の大物も承知しているので     殺し関係の報道、警察企業の捜査は組織が揉み消すことをフィクサー     経由でPCに話すこと。      ターゲットは何人かの私兵と共に廃ビルに逃げ込んでいる。ビルの     セキュリティと見張りを突破し、ターゲットを仕留めれば任務完了。      セキュリティと護衛は簡易判定で二、三回判定する。      シナリオ余力が0になった時ターゲットは死んだことになる。     【余力】18   体力:10    精神力:8     【特徴】     【技能】火事場の馬鹿力[体]:15 ビルのセキュリティ[技]:12         やる気の無い護衛[体&人]:12