剣と詩 ====== Sverth og Gandr =============== 『剣と詩』序論 ==============  北欧を中心とした古ノルド語圏とその周辺に残る碑文石や写本の中には、当 時の人々から『剣と詩』(sverth og gandr/スヴェーエズ・オグ・ガルドル)と 呼ばれていた物語群が存在する。  これらは剣を振るう力強い英雄や、不思議な詩を唄う詩人が活躍する幻想物 語群で、アイスランドやフェロー諸島での発見が多いこと、また物語の内容も ケルトの伝説や聖書の内容を取り込んだことが窺える部分があり、さまざまな 神話世界が混交して、騎士道物語の世界として成立する過程の文献としても、 非常に興味深い。  現在確認されている中で一番まとまった資料は、オーレヴ・ソーリルソン (1129?〜1187?)の著作から数十話が抜粋された写本で、19世紀のロンドンで発 見された『剣と詩の書』である。これは原書が遺失している上に写本の破損も 激しく、原題を知ることができなかったために最初の見出しからつけられた仮 の題名であるが、後の研究により、図らずも当時の人々がそう呼んでいたとい うことが判明している。  『剣と詩の書』が発見されるや否や、これらの物語群は多くの幻想家や研究 者を魅了した。ニーベルングの指環を代表とする歌劇を物したヴァーグナーや、 彼の理解者、ルートヴィヒ二世もこれらの物語に傾倒していたという。  そして現在、研究者たちの分析やフィールドワークによって、物語の舞台が 歴史という霧の中からその姿を浮かび上がらせようとしている。  『剣と詩』の英雄たちが冒険の舞台としているのは、北は北極の氷原を思わ せるイススレッタ、南はアルプスらしきエンダガルズル、西に広がるニフルス ヤーと呼ばれる大西洋とアメリカ大陸らしいギロエナスト、東にはシベリアを 想起させるスケームスルという荒野。こういった四つの異界に挟まれた人界、 ゴーアランディが英雄たちの駆け抜けた世界である。  そこは妖精が住まい、神々のしろしめす幻想郷である。が、エンダガルズル を越えてやってきた人々が伝える新しい神によって古き神々が力を喪って妖精 となり、さらに小さな妖精たちは消えていく。そんな伝説の黄昏時でもある。  本書ではかように魅力的な『剣と詩』の世界を、『剣と詩の書』に記されて いる物語(α群)、『剣と詩の書』と同時代に記されたと推定される物語(β群)、 そして『剣と詩の書』の再発見以降に記された新しい物語(σ群)に大別して解 説する。  σ群については眉をしかめられる諸賢も多いと思われるが、新時代の語り部 によって紡がれた物語もまた、『剣と詩』が現在、今ここに至るまでの歴史を 知る上では欠かすことの出来ない物語の一部であると著者は考えている。  未だ日本では知名度の低い『剣と詩』であるが、本書がささやかではあるが 幻想世界へと分け入る読者への道標となることを祈念し、前書きの結びにかえ るものである。 剣は断ち、詩は紡ぐ ================== 余力 ----  『剣と詩』の世界は二つの大きな力によって成立しています。一つは剣の力、 もう一つは詩の力。この項ではこの二つについて解説します。 剣の力と騎士:  英雄が振るう剣に象徴される破壊の力です。破壊、闘争、突破など、ややも すれば暴力的と取られそうなイメージですが、現状を打破する変革の力です。  この値が大きな英雄は騎士となることが推奨されます。騎士は自らの剣で物 語を切り拓き、その物語は英雄譚となって広く人々に語り継がれます。騎士が 使う魔法は不思議な呪文ではなく、運命を切り拓く力そのものなのです。 詩の力:  詩人が紡ぐ詩に象徴される創造の力です。維持、治癒、和解などのイメージ ですが、反面として現状に囚われて前に進めなくなることも内包しています。  この値が大きな英雄は詩人となることが推奨されます。詩人は騎士ほど力強 くありませんが、常ならぬ力と通じ合える存在です。詩人の詩は魔法であり、 彼らが唄えば妖精、巨人といった幻想の住人たちが力を貸してくれるのです。  『剣と詩』の英雄は余力として「剣の力」と「詩の力」の二種類を持ちます。 特徴 ----  『剣と詩』の特徴は「剣の顕現」と「詩の顕現」の二種類となります。これ はそれぞれ、対応する業の判定にしか使用できません。  英雄は特徴値4までの顕現を持てます。それ以外のキャラクターは特徴値2 が上限となります。 技能 ----  『剣と詩』の技能は「剣の業」と「詩の業」の二種類となります。これはそ れぞれ、対応する力を使用した判定に使用できます。  英雄は技能値15までの業を持てます。それ以外のキャラクターは技能値13が 上限となります。 英雄律 ====== 英雄と時 --------  『剣と詩』の世界において、時間という要素はさしたる意味を持ちません。 後世の詩人たちに「遠き世、遠き国の」と語られる英雄伝説は、多少の整合性 など無視してしまうのです。  プレイヤーが何かを得たり失ったりしたセッション以降の英雄でプレイした いと思った場合も、GMと同席するプレイヤーに告げ、了承を得ればその設定で プレイできます。  ただし、GMが以前行ったセッション以降の時をプレイすると宣言した場合は 別です。この場合、前回のセッション終了時の状態が持ち越されます。 英雄の顕現、業 --------------  セッション中、判定前に「英雄の顕現、業」を宣言することで特徴や技能を 取得できます。英雄はしばしば、物語の流れに都合のよい道具や技能を持って いるものです。   例)詩文:15[○三人の騎士、妖精の姫に詩を捧げる話/詩]  得た特徴や技能は例のように特徴や技能の後ろに[○入手シナリオ名/分類] という書式でキャラクターシートの「英雄の顕現、業」欄に記入します。これ は次回以降のセッションで無効となりますが、三回同じ特徴や技能を入手した 場合、それはその英雄が持っているものとして[○〜]の記述を消し、最初から 持っていたものとして扱います。多く人口に膾炙した例外は、例外でなくなる のです。 英雄の死 --------  英雄の剣か詩の力が0になった瞬間「英雄の死」を宣言することができます。  宣言したら即座に行動宣言を行います。この行動宣言は絶対に成功し、もし 強制力ロールが必要となる場合もそれを無視します。この行動宣言では例外的 に相手の「死」を指定することができます。  この処理が終了した直後に英雄は死亡し、以降の時を舞台としたセッション にも登場することができなくなります。  英雄がこれの対象となった場合、彼は特徴値3以上の特徴をひとつ失うこと で、この効果を無効化することができます。   例)家宝の盾:3[●竜が死に際に吐いた炎を受けて破壊]  これによって失われた特徴は、例のように[●失った理由]という書式でキャ ラクターシートに記述します。この特徴はそれ以降の時を舞台としたセッショ ンではその特徴が使用できなくなります。 ゴーアランディの土地 ====================  物語解説へ入る前に、予備知識としてゴーアランディに存在する土地を大ま かに分類してその表層を解説する。 アルモリカ ==========  イススヤーとニフルスヤーの交わるところに浮かぶ、白い断崖に守られた島。  島内は諸侯が相争う動乱の時代であるが、それ故に高名な騎士たちが綺羅星 の如く生まれ、また多くの物語が生まれた。  妖精や巨人の伝説が多く残る地でもあり、彼らの血を引く怪力無双の戦士や、 聴く者を惑わす唄の歌い手が活躍する物語も珍しいことではない。また、これ は本当に珍しいことであるが、真の妖精や巨人が人と共に冒険したという物語 もある。 アルモリカの英雄たち --------------------  アルモリカの物語によく登場する英雄たち。さまざまな物語から総合した人 物像であるが、それ故に矛盾を剪定してしまったことも否めない。 アルトゥス(アーサー):  赤き竜、竜の頭などの二つ名を持つ、アーサー王物語の主人公。彼の物語は 『剣と詩』にも残っており、円卓や聖杯などお馴染みのモチーフもたびたび登 場し、円卓の騎士たちの冒険譚も多く残っている。  しかし、大系としてまとまる前の物語であるせいか、円卓の騎士に列せられ ている英雄はおろか、後の物語でアーサーとなっている人物の名前すら違って いることが多い。 マーリン:  妖精を父に、古い血の王家を母に持つ魔法使い。アーサーの助言者としてし ばしば物語に登場し、予言や不思議な術で彼を助けるが、古い年代の物語では 彼こそがアルモリカの王として活躍する物語もある。キリスト教の影響が強く なった時期の物語では、妖精と恋に落ちたために幽閉されてしまうという、後 のアーサー王物語に通じるエピソードも見られる。 モルガン:  戦いの中に散った英雄たちが向かう林檎の島に住まう貴婦人。時として英 雄に力を与えるが、彼女の祝福を受けた者はまた逃れえない破滅へと誘われ る。 モンマスシアのジョフリー:  アルモリカの詩人。アルトゥスと円卓の騎士たちの戦いを描いた叙事詩を 物し、後々の世にまで伝えた。 ベーオウルフ:  巨人や竜をはじめとする幾多の怪物を倒して武功を立て、後には王となった 英雄。『剣と詩』にも多くの彼に関する物語や、彼のモデルになったと思われ る英雄の物語が記されている。 アルモリカの土地 ---------------- キャメロット:  またの名をカーライル。アルトゥスが治めるログレス王国の都。この城の広 間には円卓があり、年に一度、アルトゥスと円卓の騎士たちが一同に会して会 議を行う。 エリン ======  アルモリカの隣に位置する島。 ヴェスタン・フラッカール ======================== アウスタン・フラッカール ========================  フラッカールが分裂した後の東側。 フラッカール ============  クリスティに帰依し、ゴーアランディ全土に勢力を伸ばした帝王カールが治 めていた王国。カールの麾下には甥のオルランドゥをはじめとした十二人の英 雄がおり、彼らの物語も広く世に知られている。  時代が下ると王国はいくつかに分裂し、フラッカールの国号はヴェスタン・ フラッカール(西王国)が継ぐこととなる。 カール(シャルルマーニュ):  クリスティに帰依して神の下に帝冠を頂いたフラッカール王。無数の遠征と 怪物退治の武功は凄まじく、敵の王と対戦した折に脳天を砕かれても神の加護 で命を取り留め、逆に相を手討ち取ったほどである。  『剣と詩』の物語にも彼にまつわる物語や、後に彼のものとなる物語が多く 収められている。 ローラント:  カールの甥にして彼を支える十二英雄の筆頭。勇猛果敢にして名誉を重んじ る好漢であるが、人を率いる将には向いていなかった。  その性格が仇となり、敵と内通していた叔父に陥れられ、絶望的な殿軍の中 で壮絶な死を遂げる。岩をも切り裂く不滅の剣が愛剣であることも有名。 ローマボルグ ============  エンダガルズルの南。ゴーアランディにとっての「異界」にある国。  かつてはゴーアランディの諸国をも版図にしていたが、今はもう過去の偉光 を失っている。  クリスティ(キリスト教)の総本山が存在するため、厳しいエンダガルズルを 越えて巡礼の冒険に赴く騎士の物語や、逆にクリスティを布教するためゴーア ランディにやってきた騎士や宣教師も多い。 ゴーアランディの人々 ==================== ノルド人 -------- ゴーアランディの宗教 ==================== 北の神々 --------  オージン、トール、テュールなどといったノルドの神々に対する信仰。自分 の一族が祀っている神と、権能にしたがった神に祈りを捧げる。 島の神々 --------   クリスティ ----------  ローマボルグからやって来た宣教師が広めている新しい宗教、キリスト教。 いわゆる騎士道精神を堅く守るような英雄はクリスティンである場合が多い。 北の神々や島の神々と交じり合っていることも多く、守護聖人となった神々に 祈りを捧げる様子も物語ではよく見られる。