フラワーポットの住環境 ======================  フラワーポットとはさまざまな用途別に設計されたフロートが織りなす群島 〈アーキペラゴ〉都市です。最初から住環境として造られたフロートは大きく 分類して二種類あります。一つは建造されている頃に造られた建造スタッフ用 居住区画、もう一つは一般居住者の請けいれを開始してからの宅地区画です。 建造スタッフ用居住区画 ----------------------  フラワーポット着工の2008年から2010年までの第一次工事と後の追加工事で 造られた建造スタッフが寝起きするための集合住宅群です。  独居用の1Kフラットを中心とした構成で、区画内には住宅のほかにも食堂や 売店、レクリエーションセンターなどがあります。  現在はフラワーポットやビーンストークの竣工後も管理要員としてそのまま 残ったスタッフが居住するほか、比較的安い家賃、価格で一般にも開放されて います。また、食堂や売店、レクリエーションセンターも別会社などに経営が 委託され、レストランやマーケット、アミューズメントセンターに姿を変えて いるところもあります。  建設からかなり年を経て目につく場所、つかない場所を問わず様々な問題が 出てきており、あまりに状態が悪い区画は再開発予定区画として新規の入居を 受け付けていないところもありますが、資金などの問題から再開発そのものは 先送りになっていることが多いです。 宅地区画 --------  フラワーポットに企業が進出し始めた頃から整備された一般居住者用の区画 です。  開発に携わる企業が区画の賃借料をフラワーポット管理財団(FMF )に払う というプロセスを踏んでいるため、FMF が管理している建造スタッフ用の住宅 より高価ですが集合住宅や一戸建てなど多様性があり、新しいものが多いです。  また、企業や区画ごとにさまざまな付加価値をつけて住人を呼び込むなど、 営業努力も盛んです。 フラワーポットの土地売買 ------------------------  フラワーポットの土地売買契約書には、フラワーポットについての最終的な 権利者であるFMF の意向によりいつでもFMF が規定の価格で土地を買い上げる ことができるという一文が盛り込まれています。  これはフラワーポットがそもそも通常の陸地ではないことから百年単位での 老朽化によってフロートを破棄するなどの事態に陥った場合、その保証で揉め ないよう盛り込まれた条文です。 フラワーポットのライフライン ----------------------------  フラワーポットを構成しているフロートの内部は中空のシェル構造なので、 そこに共同溝をもうけてライフラインを通すという構造になっています。  電力は潮力発電、海洋温度差発電、風力発電、太陽光発電など複数の手段で まかなわれており、特にビーンストーク関連施設については緊急用の火力発電 プラントも用意されています。  水は海水淡水化プラントによって精製され、共同溝の上水道を経由して供給 されます。また、建物の設計段階で屋根が雨水を集めるようになっているなど、 雨水も有効に活用されています。  ライフラインの管理、運営はAI財団傘下の水道会社や電力会社などが行って います。 フラワーポットの治安維持 ------------------------  フラワーポットに無償の警察組織は無く、身を護るためには自衛、もしくは 警備会社に依頼するという形になります。  警備会社のサービスは一日数回の警邏、近隣本部へのホットラインを基本に、 事件で被害を受けた時の保険、医療サービスやその事件に対する捜査といった サービスがパックになっているのが普通で、サービスが良いほど高価になって います。  警備区域は細かく分割されないほうが効率的なため、区画やフロート単位で 契約した場合は割引があるなどのサービスが存在し、警備会社同士の縄張りも 自然発生しています。  警備会社はFMF の制定したフラワーポットにおける禁止行為ガイドラインに 違反する者に対する逮捕権を持っていますが、クライアントからの要請以外で 自発的に検挙を行う事例はノルマがある警備会社社員がそれを達成させようと する場合くらいしかありません。  検挙者には罰金や強制退去といった刑が科せられます。土地のコストが高い フラワーポットには刑務所が存在しないため、犯罪者の拘束場所は常に問題と なっています。  検挙から刑の執行までは弁護士を介在させた交渉など面倒な手続きが多く、 抵抗が激しくやむをえず射殺されたり、弾の中り処が悪く死亡してしまうなど、 逮捕までのプロセスで死亡する犯罪者も少なくありません。 一時滞在 ========  フラワーポットにはビジネスなどで多くの人が訪れるため、ホテルなど一時 滞在者向け施設も充実しています。星つきのホテルから、棺桶〈コフィン〉と 呼ばれるカプセルホテル、曖昧宿までさまざまです。 占拠住民 ========  大都市の多くがそうであるように、フラワーポットでも住宅区画として整備 された場所以外にも人々が住んでいます。  彼らは占拠住民と呼ばれ、廃屋や路上、共同溝の中など住宅費がかからない 場所に住んでおり、その多くが安定した職を持たずその日を生きるのに必死な 人々です。  また、ヤクザやマフィアなども彼らと頻繁に接触や取引を持つため、FMF や 警備企業は占拠住民を予備的犯罪者と捉えて定期的に大陸への強制送還を含む 検挙を行っていますが、収益事業ではないため犯罪を犯した場合の検挙という 場当たり的な対処がほとんどになっています。  占拠住民はそのほとんどが無職を含む低所得者ですが、宇宙開発熱の衰えで 解雇された企業人、正規のルートで居住地を求めることができない経歴の者、 出稼ぎに来たものの儲けられなかった者など、内訳は様々です。また、それが 原因で起こる内部での軋轢も犯罪の温床となっています。 再開発予定区画 --------------  施設の老朽化や利益の減少などで開発をやりなおすため閉鎖された区画です。 占拠住民の多くはこの区画の廃屋へ勝手に住み着いています。  ライフラインはあったり無かったり様々ですが、あるとしても勝手に電気を 通し、水を使い、ネットに接続するというおよそ正規ではない場合が多いです。 中には区画ぐるみで正規の使用料を払い支払い能力のある顧客となることで、 警備会社など検挙を行っている集団に対し、企業経由の縄張り争いという形で 圧力をかけているグループもあります。  また、老獪な指導者やヤクザなどの犯罪組織の下に結束しているグループが 再開発予定になった区画へといち早く入居〈占拠〉し、出遅れた者に居住権を 売るというビジネスも成立しています。 路上生活 --------  再開発予定区画や寂れた区画の路上を占有し、ダンボールや布などで住居を 作成して住み着く人々がいます。廃屋や廃ビルの利権を確保できなかった者が ほとんどですが、そういう足のつく場所を嫌い、身軽に行動するためにあえて 選ぶ者もいます。  自然発生的にコミューンを形成しスラム化が進む原因となるので、管理する 警備会社がある区画では排除対象になりますが、既存のコミューンに流入して 更に肥大化するといった状態になっています。  安定したコミューンは犯罪組織に対するコネで維持されている場合が多く、 ある程度の秩序が形成されています。  橋梁で生活するコミューンでは、通行者から通行料を取るなどの行為もあり 関係者から問題視されています。  また、共同溝内部で生活する地下生活者も、インフラのセキュリティ面から 懸念がしめされています。 船上生活 --------  自前の船をフラワーポットの岸辺近くに接岸させ、そこで生活する人々です。 その多くはインド洋沿岸から集まり、漁業や運び屋などをして生活しています。 中には住むためだけに廃船同様の船舶を密集させた集団もあり、沿岸の安全を 脅かすとしてFMF による撤去作業が行われることもしばしばです。