合成食品 ========  フラワーポットの住人や軌道人、その他食料事情の劣悪な場所に住む人々の 胃袋を満たすことに大きく貢献しているのが、オキアミ、クロレラ、大豆など から作られる合成食品です。  その味は従来からある天然物と比較すればおいしいものではありませんが、 人が活動することに必要十分な栄養素を含み、なおかつ比較的安価なことから 普及しています。  現在市場に流通している合成食品は半生のキューブ状でパウチされたもの、 乾燥したペレット、フレーク状のもの、天然食品に似た外見に加工されたもの、 ゲル状で作業しながら飲めるようなものなど、様々な種類があります。  合成食品のほとんどは味付けなどがされた調理済み品や半調理品で、調理が 必要なものでも加熱や解凍といった簡単な処理ですぐに食べることができます。  味についてはノウハウも確立され、天然物に比べても違和感が少なくなって きています。しかし、コスト面の制約により、一番安価なクラスの合成食品は 素材独特の味や臭みの処理が荒く、しかもそれをごまかすためにスナック菓子 のような濃い味つけがされています。  これらのことから合成食品は天然物より劣った不味い物というネガティブな イメージが消費者の間に先入観として存在します。この傾向はフラワーポット 建造期、合成食品のノウハウが固まっていない時代から食べていた古くからの 消費者に多く、彼らに言わせれば今の一番不味いものでも当時のものには遠く 及ばないそうです。 フラワーポットの食事情 ----------------------  フラワーポットは合成食品を食べるという文化が世界でもいち早く根付いた 街です。量販店や市場には合成食品を並べた棚があり、レストランや屋台でも 合成食品を加工した料理を出しています。  もちろん輸入される穀物や水耕栽培の野菜、海産物という天然物もあります。 しかし、合成食品のシェアは圧倒的で、天然物は食事の付け合せに水耕栽培の レタスをつけたり、寿司バーが近海産の鮮魚をネタにする程度となっています。 合成食品と周縁産業 ------------------  外食などの周縁産業に目を向ければ、合成食品に様々な手や品を加えて味を 調律する食品〈演奏家〉が活躍し、家庭でもできる調律キットといった製品が 販売されており、料理人の一分野として認知されつつあります。  また、彼らと連携して調律済み合成食品を売る会社も出てきており、普通の ものよりは高いけれど天然物よりは安価で買いやすい価格設定で、中産階級を 中心に人気が出ています。  後述するように、これらの流れを読み取って初期段階から天然物を意識した 味付けの合成食品を一次生産メーカが投入してきていますが、最大公約数的な 造りになることは避けられず、自分好みの調律がなされた食事を求める人々に 対して一食レベルで調律する食品〈演奏家〉のいる店という需要は両立できる 状態になっています。 合成食品とネットワーク ----------------------  サイバーウェア装着者を対象に広がった五感情報のネットワーク配信では、 合成食品の味をごまかすための味覚情報配信をビジネスとして展開する会社が 出ています。口からの味覚をカットし、配信される味覚を楽しむことで安価に して豪華な食事を楽しめるという趣旨ですが、触覚で感じている食感と味覚で 感じている味のギャップから来る違和感をはじめ、本来の味覚をカットし忘れ 配信されてきた味覚と混じってできた悲惨なカクテルを体験する人が出るなど、 脳への直接刺激ならではの問題点もあるようです。 合成食品ビジネスとフラワーポット --------------------------------  農業、畜産といった技術で食料を生産することが困難なフラワーポットは、 合成食品の一大生産地であり、また消費地となっています。  AI財団はフラワーポットの建造初期において世界初となる合成食品の開発と 生産を主幹としたフラワーポット・アーティフィシャル・フード社(FAF Co. ) を起ちあげ、洋上の現場スタッフに向けて合成食品の供給を始めました。  その後FAF はフラワーポットの発展に沿って組織と設備を拡大し、一般流通、 宇宙食市場にも進出しました。2039年の世界的なシェア比率でも70% 超という 独走状態で、AI財団のフラワーポット関連事業の中でも大規模なものになって います。  しかし、古参食品メーカによる初期段階から食品〈演奏家〉が調律を施した 味重視の新製品など、FAF のシェアを脅かしかねない商品が次々と市場に投下 されているのも事実です。