巨人の詩 〜Vitra Soengr〜(仮名) ================================ 始まりの詩、または誓願 ======================  巨人の仔よ、妖精の裔よ。私の詩に耳を傾けよ。  ここに奉ぜられた詩が私に望む、遠き世、遠き国の物語を、汝らから継いだ 石にかけ、私が正しく物語らんことを!  『かれ』は始めにおいて一人であった。天も、地も、流れる水も燃えさかる 炎も無く、ただ『なにも無いこと』がそこにあった。  時も無い始めで、『かれ』は常盤であった。だが、『かれ』は孤独だった。  ある時一人の男が『かれ』を訪れた。男は『かれ』に歌を聞かせ、『かれ』 の心を慰めた。  『かれ』の安らぎは水を生み大海を生し、憤りは炎を生み火の山を生した。 悲しみは底なしの谷を産み、優しさは生命なす大地を産んだ。  歌が終わり、『かれ』は男に続きをせがんだ。全ての詩を歌い咽喉は嗄れ、 姿も老境へと差し掛かっていた男は『かれ』に草臥れた鍔広帽子と手琴を託し、 次は自分に歌を聴かせてくれないかと頼んだ。  『かれ』は頷き、男の詩と『かれ』の望みにより創られた国へと踏み出した。  聴けよ、これぞ我ら詩人が始まりの物語り。名の無い『かれ』が国を産んだ 物語り。  これに続くは。                  詩を歌い始める詩人が始祖に奉げる献詞 ようこそ --------  巨人の詩の世界へようこそ。巨人の夢でのプレイヤーは巨人や妖精の言葉を 受け継いだ詩人をプレイヤーキャラクター(以下PC)として扱い、世界に住む 人々から『巨人の夢』と呼ばれる世界、リッシ・ヴィティラを旅して人や詩と 出会うことにより紡がれる物語を楽しむことが目的となっています。  PCが旅するリッシ・ヴィティラの世界は、人の世が朝を迎えた時代。巨人や 妖精といった幻想の住人たちが少し遠くへと行ってしまった、薄暮明の時代を 舞台としています。イメージとしてはおとぎ話の世界が適切でしょう。人々は 自分の村や町から遠くへ離れることはほとんど無く、旅の行商人が炉辺でする 土産話や詩人が楽器を鳴らしながら語る物語を娯楽とし、退屈で自然は厳しい ですがおおむね平和な日々を暮らしています。 詩人とは --------  この世界の詩人は詩人として生まれると信じられています。農民の息子でも 商人の娘でも、巨人や妖精がこの世に遺した力ある古い言葉によって綴られた 古い詩に巡り合い、詩に込められた物語を幻想の中に辿ることができたならば、 詩は彼らに護りを与え、彼らを自らを歌うべき詩人とします。  また、詩人は祖先に流れていた巨人や妖精の血が濃いと考えられてもいます。  詩人は古い詩にちなむ咒いの詩を歌うことで、他の古い詩や土地や血に残る 巨人や妖精、古の人が残した想いの残滓と影響しあい、詩を変えていくことが できます。飢えの詩が残る土地ではやがて来る豊饒を歌い、血塗られた英雄の 血脈にはいずれ訪れる安らぎを約束する。詩人は約束された物語を語りなおす ことができるのです。  詩人となった者は詩を求める思いゆえか、周囲の事情からか、詩人となった 時に何かの理由を得て、詩人総ての祖である『かれ』のようにあてもない旅に 出ます。その中で他の詩人と惹かれあい、新たな詩を生み出すのです。 詩を継ぐものの呼ばわり ======================  これに続くは私が継ぐ物語り。我が父は『かれ』から数えて五つ目の時代に 生きた。父の名は夢のあるじ、エスヴェフン。  父よ、もろびとを眠りへ誘う前に、不肖の息子に時を与えたまえ!    夢のあるじが身罷った妻を夢に尋ねる詩を継ぐものが歌う前の呼ばわり PC作成 ======  PCは例外なく古い詩を継いだ詩人になります。語り部から拡張された項目を 順番に説明していきましょう。 古い詩 ------  PCが見出した古い詩の名前を書き込みます。PC十八番の(もしくは秘蔵の) 詩となる詩なので、PCのイメージにあった名前をつけるとよいでしょう。  ゲームマスター(以下GM)から指示があった場合、それを優先させます。 詩の言葉 --------  古い詩の印象を端的に表現する言葉を書きます。古い詩を技能として用いる 場合、ここの言葉のみ特徴値1の特徴として使用できます。  PC作成時には現在持っている言葉の1から3までの各項目に単語を一つずつ 書き込んでください。  詩の言葉は書き換わる可能性があります。書き換えたくない言葉がある場合、 後述する揺るがない言葉のルールに従い書き換わらない言葉を作ってください。  GMが用意していた場合はそれを使用します。 揺るがない言葉 --------------  古い詩の中には、詩の魂や中心とも言うべき言葉を持っている詩があることも あります。絶対に他の詩と交わろうとしないこの言葉を詩人は揺るがない言葉と 呼んでいます。  ルール的な記述をすると、この言葉を使って斉奏に参加できなくなる代わりに、 詩の言葉を書き換える時この言葉を対象とすることができなくなり、この言葉を 特徴として数えるとき、特徴値2の特徴となります。  揺るがない言葉を作った場合、現在持っている言葉の1に書き込み、2の欄を 消してください。揺るがない言葉を取得した場合、現在持っている言葉には二つ までしか言葉を登録できず、詩の言葉を交換する判定時は、3の出目で3の欄に 書かれている言葉を変更する以外、詩の言葉が入れ換わることがありません。 見聞を広め得た言葉 ------------------  見聞を広め得た言葉はセッション中に他のPCや古い詩から得た詩の言葉です。 これは詩の言葉欄4から5に書き込まれ、三つ以上入手した場合は若い番号の 言葉を消して書き込んでいきます。 旅をする理由 ------------  PCが詩人として放浪の旅に出た、放浪の旅を続ける理由を書いてください。 これが達成されたり消滅してしまった時、PCがある一つ処に定住を始めるのか、 旅先で看取られることなく最期を迎えるのか、それはPC次第です。  旅を続ける理由が無くなって、他の理由を見出すこともできなかった場合、 PCは旅をする詩人としては引退し、以後のセッションに登場できなくなります。  これはゲームオーバーを設定しているルールだと取られるかもしれませんが、 自分が物語るPCに何らかのゴールを用意したいプレイヤーに対して用意された ルールと思っていただければ幸いです。 親 --  詩人は古い詩を歌った詩のあるじを詩人としての親として、名乗りや誓いを 行う場合、人としての親に替えて親の名前を使うという習慣があります。  例えば冒頭で呼ばわっていた詩人は「夢のあるじエスヴェフンが息子〜」と 名乗るわけです。 ゴーアランディ人《ひな型》      比較的穏やかな土地であるゴーアランディで生まれ育った者。     【余力】10 体力:5  集中力:5     【特徴】ゴーアランディ人:1     【技能】  ゴーアランディ語:10 イススヤー人《ひな型》      厳しい氷海、イススヤーで育った者。     【余力】10 体力:6  集中力:4     【特徴】イススヤー人:1     【技能】 ハートゥン人《ひな型》      比較的穏やかな土地であるゴーアランディで生まれ育った者。     【余力】10   体力:5  集中力:5     【特徴】ハートゥン人:1     【技能】 農民《ひな型》           【余力】    体力:±0 集中力:±0     【特徴】     【技能】 (以下続く、省略) 詩読み ======  詩人は古い詩の力が影響をしている人や場所、物に近づくことで、古い詩に 込められた物語を幻想の中で辿ることができます。  ルール面でいうと詩読み技能を持つPCが難易度3の難易度ロールに成功した 場合、古い詩に込められた物語を幻想の中に辿ることができます。  このとき難易度を5にして詩読み技能を試みることができます。難易度5で 難易度ロールに成功した場合、難易度3の結果に加え古い詩の持つ詩の言葉を 一つ手に入れることができます。 詩読み技能難易度表 ------------------     難易度3    古い詩に込められた物語を幻視できる。     難易度5    難易度3の結果に加え、古い詩の詩の言葉一つ入手。 斉奏 ====  詩人は時として心を互いに響かせあって詩を歌います。  ルール面では、PC一人の古い詩技能を基準として、参加者全員の詩の言葉を 一人ひとつ特徴として足します。そして、古い詩技能と全ての特徴を合計した 値を使って判定を行えます。判定は古い詩技能を使った代表者が行います。  この時、全員が同時に行動を終了したとみなします。また、斉奏中に余力を 消費する必要がある場合、全員の余力を消費してください。  斉奏に参加した他のPCが使った歌の言葉は、見聞を広め得た言葉となります。 セッション終了時の処理 ====================== 詩の言葉を入れ替える --------------------  セッション終了時、見聞を広め得た言葉を一つでも持っていた場合、詩人は 古い詩を書き直し、より良い詩を作る機会があります。  ルール的には、 1d6を振って出目と同じ数字が振られた欄にある詩の言葉を 消すという作業になります。詩の言葉が三つになるまでこれを続けてください。  詩の言葉を三つまで削った後、現在持っている言葉に抜けができた場合は、 残っている見聞を広め得た言葉を現在持っている言葉に移動させてください。 リッシ・ヴィティラの世界 ======================== 古い言葉 --------  かつて人や巨人、妖精が使っていた言葉は長い年月の中に埋もれてしまい、 今では『古い言葉』として地名などにその残滓を留めるのみとなっています。  しかし、古い言葉で名づけられた地名や巨人、妖精の名前も命の短い人々が 語りついで行く中で変質や意味の欠落が起きてしまい、古い言葉本来の意味を 留めているものはほとんど無くなってしまいました。  これらに込められた意味を直感的に理解し、現在の言葉で歌うことのできる 人々が詩人と呼ばれます。  古い言葉とはすなわち『力ある言葉』であり、巨人や妖精が持つ古い言葉の 名前を知ることができれば、彼らから助力を受けることができると信じられて おり、詩人はそういう意味でも尊敬と畏怖のまなざしで見られています。 イススヤー ==========  リッシ・ヴィティラの北に位置している海です。北の涯へと航海した巨人の 船乗りが海の水も凍って先には進めない伝えたことから、古い言葉で氷の海を 意味する名がついたと伝えられています。  事実、その伝承が正しいことを示すかのように、冬が終わる頃には陸地から イススヤーを流れてくる氷を見ることができます。 イススヤーの住人 ----------------  凍ってしまうような海ですが、地の火を吹き出す島が多くあり、漁をしたり 南の陸地まで航海して彼ら流のいわゆる交易をしたりと、たくましい海の民が 生きる命の海でもあります。勇猛果敢で豪快な彼らのほとんどは、自分たちを 巨人の末裔であると考えることが多く、先祖が妖精だと考えている者は珍しい 部類に入ります。  海の民が歌う詩は祖先の武勲を歌ったものが多いですが、その多くは短命な 英雄の物語で、厳しい風土の中に吹き上がる地の火に似た彼らの気性が表れて おり、船の出帆、帰港から出産、葬儀などあらゆる局面で詩を歌います。  そんな巨人と英雄の裔の中でもずば抜けた度胸を持つも者は仲間を引き連れ、 ニフルスヤーを越えてギロエナストを目指す者もいます。しかし、この危険に 満ちた旅に成功したという話は、古い言葉の時代から一つも伝わっていません。 イススレッタ ------------  イススヤーの涯にあると昔語りに伝えられる大氷原です。全てが氷でできた 妖精の都があるとも、氷の中でも炎を吹き出す山で巨人が鉄を鍛えているとも 伝えられています。 ニフルスヤー ------------  リッシ・ヴィティラの西に広がる大海です。沖には晴れることの無い濃霧が かかり、あらゆる船乗りを拒んでいます。霧の向こうにはギロエナストという 豊かな大地があると旧い詩は伝えています。 ゴーアランディ --------------  北をイススヤー、南をハートゥン。西にニフルスヤー、東にスケームスルと 人に優しくない土地に挟まれた中に広がる平原で、古い言葉で『友なる地』を 意味しています。穀物を育てても恵みが死んでしまわない土地を持っており、 各地には交易所が発展した街とその周りにある村といった風情の小国と呼べる 規模の共同体が形成されており、小国間の行き来も盛んになっています。  農村地帯では ハートゥン ----------  リッシ・ヴィティラの南に広がる高地地帯です。峡谷が多く、耕作に適した 土地はほとんどありませんが、ここに住む人々は家畜の放牧や豊富な鉱脈から 採掘される宝石の交易で生計を立てています。  放牧する人々にさまざまな事を告げる角笛が音色を響かすハートゥンでは、 楽器は口の一部と言っていいほど人々に使われています。  また宝石を採掘する人々は、輝きを求め山へ分け入ってきた妖精、岩小人の 末裔であると自認しており、成人までに鍛えた業全てを込めて細工物を作って それを自分の守りにし、将来を誓う相手にこれを贈るという風習があります。 エンダガルズル --------------  ハートゥンの南方へ進むと、山は登ろうとする者を拒むかのように壁の如く 峻険なものとなります。人々はこれを最果ての山々、エンダガルズルと呼んで います。他の人を拒む地同様、エンダガルズルにも妖精や巨人の伝承が多く、 特に宝石の細工をよくする頑固な岩小人たちの物語が、ハートゥンにたくさん 伝わっています。 スケームスル ------------  リッシ・ヴィティラの東に広がる不毛の荒野です。地面はひび割れ、大小の 岩が転がる厳しい土地で、ここに住むのはリッシ・ヴィティラから追放された 人や妖精、巨人しかいないと他の土地に住んでいる人々は言います。  実際には、ゴーアランディからそう遠くない場所は奥地ほどすさんでおらず、 様々な事情で世を捨てた人々が住んでいることもあります。 リッシ・ヴィティラの風物 ======================== 古塚 ----  リッシ・ヴィティラの所々に、丘とはいわないまでの大きさをした土饅頭が 点在しています。これらは古塚と呼ばれ、古の時代に妖精や巨人が住んでいた 場所の跡だと伝えられています。それを証明するかのように古塚を訪れた者が 古い詩と出会い、詩人になったという話も枚挙に暇がありません。  人里近くや街道筋の古塚には近くの住人が祠を建てて古の種族を祀っている 事が多く、旅人が雨風や夜露をしのぐ場所としても役立っています。  また、山奥や森の中など人里離れた場所の古塚でも不思議と周囲が片付いて いることがあり、人々はこれを塚を守る塚人のしわざとしています。 石積 ----  古塚のようにリッシ・ヴィティラの方々に存在する巨石群です。人一人より もっと大きな石柱がいくつも積み重ねられ、何かの門や囲みのように存在する 不思議なものです。巨人の家や城だと伝えられていますが、それを示すような ものは何一つ発見されていません。しかし、ここも古塚と同じように古い詩が よく見出されるため、古の時代に縁の深い場所だと考えられています。  石積の周りではそれを崇拝する人々が人里から離れ、山野の実りを採取し、 古の巨人や妖精たちに祈りを捧げる姿がしばしば見られます。 リッシ・ヴィティラの人々 ------------------------ ゴーアランディの農民《ひな型》      ゴーアランディの農村で農作業に従事する人々。     【余力】10   体力:5  集中力:5     【特徴】ゴーアランディ生まれ:1     【技能】農作業:10  ゴーアランディ語:10 ゴーアランディの商人《ひな型》           【余力】10   体力:5  集中力:5     【特徴】ゴーアランディ生まれ:1     【技能】商売:10  ゴーアランディ語:10  イススヤー語:8         ハートゥン語:8 イススヤーの戦士《ひな型》      イススヤー     【余力】10   体力:7  集中力:3     【特徴】イススヤー生まれ:1     【技能】肉体戦闘:10  イススヤー語:10 終わりの歌、または ==================  その詩人は手琴を静かに爪弾くと、余韻が消えるのを待って傍らへ置いた。 世界が始まった詩から、巨人と人間が知恵比べをした詩、妖精と人間の恋の詩、 氷の海で生まれた英雄が駆け抜けた戦いの詩、荒れ野を彷徨う咎人の詩。  そして、詩を捜し旅を続ける詩人の詩。  歌い続けたせいか、老翁は少し咳き込む。  周りで聴いていた子たちはもういない。広場から少し離れたところに連なる 屋根から立ち昇る煙と香ばしい香りに誘われて家へと帰ったのだろう。  その時、子の輪から離れた木陰で老詩人の歌を聴いていた少年が欠けた椀に 注いだ清水を渡す。  翁は老いてなお張りのある声を取り戻し、水の礼にと手琴を取り弾き始める。 それは、少年が古い言葉の詩を見つけて旅立つまでの詩。  歌が済んでもなお、少年はそこに座っていた。  儀式めいた沈黙を待つための沈黙の後、老詩人は手琴を傍らへ置き、静かに 目を閉じた。  あたりに音もなく、しかし確かに古い言葉の詩が解き放たれる。翁に残るは 旅立ちの日に見つけた夢と、旅路に出会った思い出ばかり。  少年は老詩人の歌った少年がそうしたように、飴色になるまで使い込まれた 手琴を恐る恐る爪弾く。  そして、物語は始まった。